高まる次期首相への待望論
元環境大臣であり、現農林水産大臣の小泉進次郎氏が次期首相候補として注目を集めている。産経新聞社とFNNの合同世論調査では、次期首相にふさわしい人物としてトップとなり、高市早苗氏を逆転する結果を示した。長らく「次の首相」として待望論が強かった小泉氏は、44歳という若さで自民党総裁選(9月12日告示、同27日投開票)への出馬を表明した。コロンビア大学大学院修士号を持つ国際的エリートとしての学歴や、盛況を博す陣営会合の様子は、史上最高学歴の首相誕生への期待感を高めている。
政策の柱と「脱炭素」への注目
小泉氏の政策の根幹は、環境大臣時代から一貫して取り組んできた脱炭素社会への推進にある。日本のエネルギー政策に大きな影響を与えるその姿勢は、再生可能エネルギーを「主力電源」として位置づけ、最優先で最大限の導入を進めるという立場に表れている。2021年、彼は経済産業省が掲げた2030年度の再エネ導入目標を「36~38%以上」とすべきだと主張し、上限の設定を否定した。2019年9月の大臣就任時には4自治体しかなかったゼロカーボンシティ宣言は急速に増加し、日本人口の過半数である6,500万人を対象とする水準を目指すまでに広がった。また2020年10月には国立公園内での再エネ発電所設置を促す規制緩和を表明した。
経済政策についても「持続可能な社会」と「人生100年時代の国づくり」を掲げ、5年以内に平均給与を100万円引き上げるという野心的な目標を提示した。その実現のために生産性向上、投資促進、技術革新、人材育成を推進するとし、さらにガソリン暫定税率の廃止や所得税制の見直しなど、物価高対策も公約に含めている。
恩恵を受ける主要セクター
小泉氏が総裁となり政策を実行した場合、複数の産業セクターに具体的な恩恵が及ぶ可能性がある。再生可能エネルギー関連産業は、再エネを主力電源とする方針や国立公園内での規制緩和、太陽光パネル普及促進策などの後押しを受けると考えられ、太陽光パネル製造、設置工事、蓄電池関連、スマートグリッド構築など幅広い分野にビジネス機会が広がる。地熱発電の富士電機(6504)(*小泉氏は国立公園などの開発を緩和し地熱発電を加速する旗振り役を担ったことが過去にある)や再エネ開発のレノバ(9519)といった企業も注目される。
IT産業や製造業も賃金引き上げ目標に関連し、DX支援、AIやIoT開発、産業用ロボット、自動化支援といった分野で新たな需要が期待される。さらに、賃上げや物価高対策による購買力向上は消費関連産業を押し上げ、家電量販店、百貨店、小売、飲食などに恩恵が及ぶと考えられる。農業分野でも農水大臣としての経験を生かし、「儲かる農業」や米価対策、生産者のセーフティーネット構築に注力しており、スマート農業や農業資材、流通・加工業者にとってもビジネス機会が広がる可能性がある。
政策遂行における課題とリスク
一方で、小泉氏の政策には多くの課題とリスクが存在する。再エネ拡大に伴う賦課金の増加によって、標準世帯の電気料金が将来的に大幅に引き上がり、「グリーンフレーション」として国民負担を増大させる懸念がある。電力需要の不安定性によって需給逼迫警報が頻発するなど、電力供給の安定性も課題である。さらに移行期においては、火力発電施設や化石燃料貯蔵施設の除却コストが発生し、事業者の投資回収を難しくする恐れがある。
経済政策についても、「5年で平均給与100万円アップ」という目標は抽象的で具体性に欠けるとの批判がある。経済専門家ではない小泉氏に政策を委ねることへの不安も示され、成長を前提とした実現性には疑問が残る。さらに物価上昇圧力が日銀の金融政策や金利動向に影響を与え、成長戦略と財政規律のバランス調整が課題となる。
今後の戦略的対応
小泉氏の政策は日本の産業構造を大きく転換し、グリーンビジネスをはじめとする新たな成長分野に多大な機会をもたらす可能性が高い。脱炭素化の流れは長期的に続くとみられるが、一方で賦課金による国民負担増、電力供給の安定性、財源確保と財政規律の調整といった課題は避けて通れない。これらをいかに克服するかが、仮に小泉氏が首相になった場合の次期政権の成否を左右する最大の焦点となるだろう。