Eli Lilly とNovoの株価が10月17日(金)の米国市場で下落。トランプ大統領が「減量薬(GLP-1治療薬)の価格が大幅に下がる可能性がある」と示唆したことを受けたもの。具体的には、CNNによると、「ロンドンではある薬を130ドルで買えるのに、ニューヨークでは同じものに1,300ドル払わなければならない」とトランプ氏は木曜日の体外受精(IVF)に関する発表の冒頭で述べた。「だから今後は、1,300ドルではなく、およそ150ドルで買えるようになる。」ともコメントした。
中外製薬(4519)などの日本のGLP-1関連銘柄は金曜日の市場で株価が既に反応済みであると思われる。また、トランプ大統領がGLP-1治療薬の価格に対して発言する動きは新しい話ではないが、その背景には薬価を巡る米国と米国外の不平等とも見える仕組みがある。

「不公正な仕組み」の存在とその構造
2025年5月12日にトランプ米大統領が署名した「最恵国待遇(MFN)薬価」大統領令は、米国の処方薬価格をカナダ、日本、欧州諸国などの最低水準に近づけることを目指している。この政策は、米国が世界の医薬品市場の約4-5%の人口でグローバル利益の70-75%を負担する「不公正な仕組み」を是正する意図があるとされる(White House)。特に肥満症治療薬(例: ノボノルディスクの「ウゴービ」、イーライ・リリーの「ゼップバウンド」)は、米国での高価格(例: 先述のトランプコメントだとニューヨークで1300ドル、ロンドンで130ドル)と巨額支出が問題視され、大幅に引き下げる可能性が示唆されている。この背景は、製薬会社が海外で低価格販売した分の利益を米国で高価格設定により補填する構造(グローバル・フリー・ライディング)とされ、米国消費者の負担の大きさが指摘されている。
米国は、OECD諸国平均比で薬価が2.78倍、日本比で3.47倍と高く(NCBI)、これを背景にトランプ政権は商務省とUSTRに他国の価格抑制策調査を指示。応じない場合の関税措置も示唆しており、グローバルな薬価構造に影響を及ぼす可能性がある。(ただし、過去に 最恵国待遇に基づくDrug Pricing Model (2020年の提案)が裁判によって実質的に 阻止/撤回された 経緯があるため、今回も実効性には疑問が残る。)
日本への影響
トランプ政権の政策が日本の薬価議論に波及する可能性もある。MFNモデルは日本の薬価を参照基準とし、米国からの通商圧力(例: 関税追加)が日本政府や中医協の薬価改定議論に影響を与える可能性がある。過去にUSTRが日本の参照価格制度を批判した例があり、類似の圧力が予想される。
さらにミクスOnlineによると、日本製薬工業協会の宮柱明日香会長は「日本市場の魅力を伝えきれなかった場合、日本に革新的新薬を上市しない、上市を遅らせるという意思決定が生まれる可能性もあることを最も懸念している」とコメントしている。
また、OECD や PhRMA(米国研究製薬工業協会) のデータによると、世界の製薬業界R&D投資の半分以上が米国に集中しており、さらに日本の製薬会社は自社開発よりも海外企業・研究機関との提携や買収、ライセンス収入への依存が高まっている現状があるため、米国で薬価への圧力が高まり、米国企業の研究開発投資意欲が低くなることは日本の製薬会社にとっては悪い方向性となる。