注目を集めるゲーム業界の再編
2025年9月29日、米大手ゲームソフトウエア企業エレクトロニック・アーツ(EA)が、プライベートエクイティ投資会社シルバーレイク、サウジアラビア政府系ファンド(PIF)らのコンソーシアムによる買収に合意したことが発表された。それに伴い29日にEA株は米国市場で約4.5%上昇した。この約8.2兆円規模の買収は、実現すれば過去最大級のレバレッジド・バイアウト(LBO)となる見込みである。アクティビジョン・ブリザードやジンガなど既に大手企業が巨大企業に買収される流れが加速するゲームソフト業界において、EAの非公開化は統合再編の動きを一層強めるものとして、大きな注目を集めている。市場ではEAのバリュエーションがこれ以上つり上がると見る向きは少ないようだが、ゲーム産業への示唆は大きい。
AIが生み出す余暇時間の奪い合いという文脈
今回のEA買収は、PIFが脱原油の経済多角化戦略を推進する中で、ゲーム産業を新たな投資対象として見定めている背景が深く関わっていると考えられる。サウジアラビアは原油に代わるビジネスを育成することに注力している。潤沢なオイルマネーが新たな成長分野へと流入している。
キャッシュフローの安定性やコモディティ資産との非連動性がそういった資金の動きの最大の背景と見られるが、AIブームという文脈でも注目できる。生成AIや自動化の進展によって人々の生活から一定のタスクが切り離され、大幅な増加が予想される人々の余暇時間が向かう先としてゲーム株が注目されている。
国立研究開発法人科学技術振興機構の記事によると、英国・日本の専門家調査では、家事・ケア業務の約39%が今後10年で自動化可能と推定されている。これが意味することは、「浮いた時間の過ごし方」が新たな成長市場となり、その奪い合いが激化するということである。ゲーム産業はまさにこの競争の最前線に位置しており、マルチプラットフォーム戦略は単なる販売チャネルの拡大にとどまらず、「余暇時間をいかに支配するか」という競争の基本条件となりつつある。
今後もコンテンツ・ゲーム産業への注目は高まろう
PIF は “Entertainment, Leisure, and Sports” 分野における投資を明言しており、国内外でエンターテインメント、テーマパーク、スポーツ施設、ライブ会場、観光インフラなどの開発を推進している。例えばPIF の子会社 SEVEN(Saudi Entertainment Ventures Company)が、リヤドなどに大型エンターテインメント複合施設を建設する計画を立てている。
今のところ日本のコンテンツ・ゲーム株はこのニュースに反応していないものの、コンテンツ産業に世界的な資金が集まることは日本にとっての大きな事業機会につながりうると考えられる。