AIとユーザーのインタラクションで広告効率は劇的に改善するだろう
Metaが生成 AIとユーザーのインタラクションに基づいて、コンテンツと広告の推奨をパーソナライズ化すると発表した。例えば、旅行についてAIに相談をすると、後に旅行に関連した広告が表示されるようになることが予定されている。生成AIを意思決定のツールとして使う人が非常に多い昨今、AIを広告の最適化に用いることによる効果は非常に大きいことが期待される。
ユーザーのAIに対するプロンプトを広告に活かすことによる効果に関しては、実証された例が少なく定量的な予想をすることは困難である。しかし、過去から学ぶとするとEUでプライバシー規制が導入されたことによる広告へのインパクトに関して、業界で広く知られた論文として、「Privacy Regulation and Online Advertising」(2011年、Management Science誌掲載 )が存在する。大規模な実証データを用いて、EUで「プライバシーおよび電子通信指令」(Privacy Directive)が施行された後、オンラインディスプレイ広告の「購買意図の変化」における有効性は、規制がない国々との比較において平均で65%減少したことが実証された。2011年当時のプライバシー規制でこれほどネガティブインパクトがあったことから逆算すれば、プロンプトのようなユーザー行動に深く結びついたデータを利用することによるポジティブ効果は極めて大きいことが予想される。
メディア・広告業界に対するインプリケーション
電通の発表によると、2024年の日本の総広告費は 7兆6,730億円。そのうち インターネット広告費は 3兆6,517億円 で、総広告費に占める割合は 約47.6 % に達している。2014年にはこの比率は17.1%であったところから爆発的に伸びた。それと同様のことが今起きており、テレビはもちろんのこと、インターネット媒体に関しても、今後AIエージェントにシェアを奪われる可能性が中期的には高いと考えられる。
一方で法人顧客を抑えており、またAIリテラシーの高いネット広告エージェントにとっては恩恵につながる可能性がある。日本において、Metaとの先進的な取り組みが目立つのはセプテーニ(4293)である。(同社の株式の過半は電通(4324)によって保有されている。)
プロンプトの利用ではなく、AIによるコンテンツの最適化という文脈ではあるが、Metaの行っているASC(Advantage+ショッピングキャンペーン)においての功績が認められて、同社は2024年MetaからBest AI Solution Partnerとして選ばれている。
広告最適化という点においてもMeta社の取り組みの中で、同社がそれなりの役割を果たす可能性は高いと考えられる。
AIプラットフォームが収益化を加速させる背景
米国での動きに話を戻すと、Metaの発表と時を近くして、ChatGPTは、TikTokに似た新たなサービスを立ち上げる予定だと発表されているなど、生成AIプラットフォームによる「アンダーストリームへの進出による収益化の試み」が加速しているという印象も受ける。
AIプラットフォームが収益化を加速させている背景としてはいくつかの理由が考えられる。
第一に、計算コストの増加が深刻である。AIモデル、特に大規模言語モデル(LLM)の開発・トレーニング・運用には莫大なコンピューティングリソースが必要となる。そのための投資も増えており、例えば2025年9月にはエヌビディアがOpenAIに最大1,000億ドル(約15兆円)を投資すると発表した。
第二に、法的・倫理的リスクの増大がコストアップを招いている。AIモデルの学習に使用される膨大なデータセットの取得方法を巡っては、個人情報保護、データプライバシー、データスクレイピング、知的財産権侵害などに関する訴訟が既に発生しており、今後も増加が予想される。EU AI Act(リスクに基づいてAIを分類し一部を規制)といった規制や、NIST AI RMF(米国の公的機関によるAI活用に関するガイドブック)のような新たな規制フレームワークの登場は、コンプライアンスのための新たな投資を企業に要求する。
こういったコストアップの中で、AIプラットフォーマーは収益化を加速していると考えられ、結果、広告業界におけるダイナミクスもそれに伴って加速することが予想される。