株式会社アサカ理研(5724、東証スタンダード)
本日(2025年10月14日)貴金属市況の高騰を背景に一時20%を超える急騰を見せ、年初来高値を更新している。
これは今朝のレポートでも触れた米トランプ大統領の発言にも関連して、同社が「都市鉱山」関連の有力株として投資資金の波状的な攻勢を浴びているためである。
アサカ理研は、廃棄された電子機器や工業用廃材などに含まれる金、銀、白金族などの有価金属を、独自の技術で高効率に回収・再生する「資源再生メーカー」である。同社の事業は、資源の乏しい日本において、資源循環型社会の実現とサプライチェーンの安定化に貢献する国策的意義を持つと評価されている。
都市鉱山ビジネスの技術的強みと独自性
アサカ理研の競争優位性は、創業以来培ってきた化学処理技術、特に高度な「分離精製技術」と「選択的剥離技術」に裏打ちされている。
(1) 既存事業のコア技術:溶媒抽出法による高純度化同社の主力である貴金属リサイクル事業では、主に水晶振動子や半導体、コネクタなどの電子部品製造工程で排出される基板屑や不良品を原料とする。分離精製技術(溶媒抽出法)は、特定の有機溶媒と水溶液を接触させることで、狙った金属イオンのみを選択的に抽出し、他の不純物から分離・精製する手法である。アサカ理研は、この溶媒抽出技術を高度に体系化している。例えば、独立行政法人日本原子力研究開発機構との共同開発では、回収した金属を純度99.999%(ファイブナイン)まで高純度化することに成功したと発表している。これにより、回収品を地金として国内市場に高付加価値で供給できる。
また選択的剥離技術も有している。薬液の配合をコントロールすることで、複数存在する金属の中から特定の金属のみを狙って溶解させる技術である。この高い選別能力により、複雑な構成を持つ電子部品から迅速かつ確実に有価金属を回収できる。
これらの独自プロセスは多数の特許で保護されており、高効率かつ高品質なリサイクルを可能にし、他社の追随を困難にしている。
(2) 新規事業:LiBリサイクルにおける環境優位性の確立同社が近年最も注力するのは、電気自動車(EV)などで需要が急増しているリチウムイオン電池(LiB)の再資源化事業である。
「LiB to LiB」戦略:使用済みLiBからリチウム、コバルト、ニッケルなどのレアメタルを回収し、これを再びLiBの原料として供給する「LiB to LiB」(電池から電池材料へ)という水平リサイクルモデルの実現を目指している。これは、LiB原料の安定供給確保と、鉱山開発による環境負荷軽減に直結する。
独自湿式プロセス:一般的なLiBリサイクルプロセスは、高温で処理する乾式製錬法を採用することが多いが、アサカ理研は「焼成を行わない粉砕による前処理」と「溶媒抽出による後処理」を一貫して行う湿式プロセスの技術も有している。
この独自技術の最大の優位性は、CO₂排出量と残渣廃棄量を大幅に削減できる点にある。乾式法に比べてエネルギー消費が少なく、環境負荷が低い。
従来、乾式法では再資源化が難しいとされてきたリチウム(Li)の高効率回収を可能にしている点も特筆すべき強みである。
国策との連動:政治・経済安全保障の視点
アサカ理研はの事業は日本の国家戦略、特に「経済安全保障」および「資源の安定供給」という国策と強く連動しているため、政策的な注目度が極めて高い。レアアース供給網の要:2025年6月には、日本政府が米国との関税交渉において、中国を意識した「レアアース採掘・再利用技術での協力パッケージ」を提示するとの報道を受け、同社株がストップ高となった経緯がある。これは、中国が世界の供給を支配するレアアースの再利用技術において、アサカ理研の技術が日本の供給網構築の切り札として、国家レベルで重要視されていることを示す。
経済安全保障推進法との親和性:同社のLiBリサイクル事業は、「経済安全保障推進法」において特定重要物資に指定されている「蓄電池」や「重要鉱物」の安定供給確保に直接的に貢献する。
政府が国内のサプライチェーン強化を推進する中、同社の技術は国策に合致した最先端の取り組みと位置付けられる。また同社は、LiBリサイクルにおいて、欧州連合(EU)の電池規則が定める2031年のリチウム回収率目標(80%)を国内メーカーとして初めて達成したと2023年に発表した。
時価総額に比して大きな設備投資増額の戦略的意味合い
同社は、LiB再生事業の実現に向け、いわき工場への設備投資額を当初の約22億円から約70億円に大幅に引き上げると発表した(2026年稼働予定)。
数値的な視点:同社の現在の時価総額(本日急騰後で約84億円程度)に対して、約70億円という投資規模は、極めてアグレッシブな「攻めの経営判断」であり、全社を挙げてLiBリサイクルを新たな成長の柱に据えるという強い意思表示である。自己資金と借入で調達するこの巨額投資は、市場に対して同事業の成功に対する確信を強く印象付け、今日の株価急騰の一因ともなっている。
事業戦略の視点:この設備投資の増額は、EV向け車載用LiBメーカーであるプライムプラネットエナジー&ソリューションズ(PPES)(現社名は「トヨタバッテリー株式会社」)との間で、工程廃材リサイクルの受託に合意したと2025年初頭に発表したことと深く関連している。
この協業は、単に廃棄物を処理するだけでなく、「LiBメーカーのサプライチェーンに組み込まれ、安定的な原料調達とクローズドループ(LiB to LiB)を構築」する上での足がかりとなる。
アサカ理研は高い資源再生技術と「環境負荷の低減」という付加価値を武器に、グローバルな資源循環ビジネスの確立を目指していると言える。短期的には貴金属市況の恩恵を享受しつつも、中長期的な企業価値は、この「攻めのLiBリサイクル戦略」の成否にかかっている。